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隊は2001年8月おわりに、インドはムンバイで結成された。パキスタンとの係争地であるカシミールへとスムースに入ることができたのは、カパディアのおかげである。ベースキャンプに入りさっそく偵察へ向かったウィル� ��ォードらは、膨大な数の未踏峰の中から照準を定めた。グランドジョラスを彷彿させる1200mのアレートを擁する「ピーク6,218」だ。そして9月9日、5日分の装備を背負い、2人は出発した。
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9月11日、世界がテロリストの恐怖に騒然となる中、リッチーはこのルートの核心ともいうべき、前傾したピラーに取り付いていた。事件はその時突然起こった。落ちたのはテレビ位の大きさの岩塊。しばらくして900m下から響く轟音。自分のメインロープの末端から3m程を岩がかすめ、ロープが切断された事をリッチーは知り、背筋が凍った。気を取り直してロープを結び直し、再び登りだした2人は、その夜をピラー上で迎えた。上には、頂上へとつながる氷壁が聳えている。
9月12日、残す氷壁は傾斜70度、180mだ。たった3本のアイススクリューと効かないクランポンとの闘い。ラストピッチでウィルフォードは、雪庇下をトラバースする。予定していた下降ルートをチェ� �クするためだ。しかしその瞬間彼の胃は痛んだ。下降に予定したガリーは新雪で埋まり、巨大な雪庇が覆い被さっていたのだ。
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9月13日、登頂した2人は、食料の減りや他の仲間の心配を考え、予定していた下降ルートを捨て、氷河へと続く広々とした南壁ガリーをたどることに決めた。下へと続く氷河は、ベースキャンプのあるアルガングラバレーまで我々を導いてくれるようだ…。しかしこの決定が後に2人をあそこまで苦しめようとは、まだ知る由もない。彼らはギアやロープなどを軽量化のため投棄した。その夜、平らな草原に降りビバークする2人は、既に翌日にベースキャンプで飲むビールのことを考えていた。
9月14日、早朝に目覚めたウィルフォードらは、7日もつように食い延ばしてきた食料の残りを全て食べきり、谷を下り始めた。疲れていたが意気揚々としていた。だが一方� ��、時間が経つにつれ、家畜や羊飼いなど、人の気配のあまりの無さに、2人は言いしれぬ胸騒ぎをかすかに感じてもいた。穏やかな谷を下る彼らの先には、急流渦巻くゴルジュが控えていたのだった。
初めこそ対岸から対岸へと飛び移り下っていたものの、次第に壁は聳え、状況は険しくなってゆく。しかし、もはや戻ることは許されない。ラペルを繰り返すうち、その支点はピトン1本に、そしてスリングの上に岩を積み重ねただけに、と次第に厳しさを増す。当初の自信はゆらぎだす。
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ついに2人は、滝の流れへダイレクトにラペルしなくてはならない状況に陥った。先に降りたのはウィルフォードだ。ぬめる苔が彼の足をはじく。彼は下へついても、解除する前に溺れ死んでしまうのではないかと考え、ロッキングビナをあえて締めなかった。水流はそれほど激しく彼をたたきつけた。
もはや乏しい可能性のなかを2人のクライマーが進む。ラペルスリングは、切断したクランポンのストラップやロープで代用しているありさまだ。そんな時だった。険しい谷の合間の向こう側に、ベースキャンプへと続くナブラバレーを発見した、しかし。
2人の足下には、落差60mの滝があった。ラペルしても、ロープは残置せねばならず、もう1度ラペルがあったらそれで彼らは終わりだ。彼らは、またも決断を迫られた。
2人は30mの非常にもろく不安定な壁をのぼり、上へと抜けることにした。ウィルフォードがのぼり出す。冷蔵庫ほどの不安定に張り付いている岩塊を越え、ボロボロのチムニーを抜ける。そして上部は前傾壁である。
「頭に拳銃つきつけられたような状況で、ウィルフォードの動きはものすごく落ち着いていた」リッチーはこう証言した。核心を抜け、ビレイスタンスを見つけ、ピトンを打ち込む。5.13R/Xのグラウンドアップによる初登。30年のクライミング人生で、あんなに恐ろしい1ピッチはなかった、と後にウィルフォードは語った。上へと通じるかすかなケモノ道を抜け、ビバークする。彼らは生き延びたのだ。
9月15日、翌朝の彼らは、ナブラバレーで隊が探しに差し向けたポーターと再会しベースキャンプへと戻った。ウィルフォードとリッチーが初登頂した山は、仏教の守護神の名にちなみ、ヤマンダカと名付けられた。そして、拓いたルートは、厳しい冒険にふさわしく、バルバロッサと命名された。これは、ベースキャンプで読まれた本のタイトルであり、第二次大戦のドイツによるロシア攻撃の作戦コードからとったものである。
「ベースキャンプに戻ったら、俺達を探しにみんないなくなっていたんだ」ウィルフォードは思い出す。
「おまけに、キャンプのビールは、全部飲まれちまってたんだ」
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