フェイスブックは手段のひとつであってそれが全部ではありません。その証拠に、携帯電話やインターネット接続を切られていた数日間も、チラシと口コミでデモは日々拡大しました。以下に説明する若者のグループがフェイスブックで立ち上がり、拡大したので、フェイスブックが過大評価されていると思います。だいじなのは手段よりもそれを使う人間です。

抵抗運動を主導したのはいくつかの若者のグループや個人の活動家とそのネットワークで、特に重要なグループが二つあり、一つは4月6日ユース・ムーブメント、もう一つはハリド・サイード運動です。

4月6日ユース・ムーブメントは、繊維� �場のストライキ支援をきっかけに2008年に結成された若者のグループで、今回の抵抗運動前の時点で約7万人の支持者がいたそうです。このグループは2008年以降、何度もストライキ支援やデモを実施しており、主要メンバーはその都度何度も警察に拘束されています。

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1月25日（警察を称える国民の祝日）のデモについては、今年はチュニジアで政権転覆が成功したあとだったので大きなものになるとの期待はあったようですが、呼びかけた側の予想を大きく上回る人出になったようです（数千人規模ではないかとの予想だったようです）。

抵抗運動の戦略についてこのグループは非常によく研究していて、ルーマニアの革命をリードした学生グループに指導を受けたりしています。徹底した非暴力と秩序を重んじる方向性を最初から打ち出しており、過去のデモ等で場数も踏んだリーダー格の人材がけっこういるようです。警官隊に行く手を阻まれると逆に警官をハグしたり、いきなり全員が道 にひざまずいてお祈りを始めたりなどユニークな戦略をとっています。また、デモのあとに清掃を呼びかけたのもこのグループではないかと思います（確認はしていません）。

今回の1月25日のデモは、このグループの女性メンバーのひとりがその1週間前にフェイスブックにビデオ日記をアップロードして呼びかけてのがきっかけで、それを受け、いくつものの若者グループに広がりました。

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ハリド・サイード運動は昨年、ある若者の死をきっかけに誕生したネットアクティビズムグループです。警察の不正を撮影した動画をインターネットカフェからYOU-TUBEに投稿した若者（ハリド・サイード）は、秘密警察によってカフェから引きずり出され、ひどい暴行を受けて死亡しました。死亡後の変わり果てた顔写真と生前の顔写真がネットで公開され、若者たちの怒りとシンパシーを集め、ハリド・サイード運動のフェイスブックには50万人もの賛同者が集まりました。

賛同者はそれぞれ独自に活動を行っていたようで、例えば、集会の自由の制限の裏をかく方法として、アレクサンドリアの海岸に集まって海に向かってコーランを黙読す る運動などが実施されていました。

この運動を立ち上げたのは、今回の抵抗運動の指導者として持ち上げられつつあるグーグル社員のゴ二ムさんです。かれがリーダー格のひとりであることは間違いないですが（もともと国外にいたかれは財産も処分して死ぬ覚悟でエジプト入りしたようですし）、かれひとりにそれを負わせると今回の運動の本質をつかみ損ないます。

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他にも有力な若者グループがいくつもあり、また活動家ブロガーもたいへん多く、抵抗運動のきっかけはこういう人たちが作りました。また、知識階級の若者だけでなく、いくつかの職能組合も最初から参加していたグループのひとつだと思います。簡単に役割を分ければ、戦略は4月6日ユース・ムーブメントと何人かの活動家、動員はハリド・サイードとその他のグループと言えるかもしれませんが、同じ人物がいくつものグループにかかわっている場合が多く、ネットワークの構造はもっと複雑です。

というわけで、今回のデモのとっかかりには、ムスリム同胞団などのイスラム主義者はもちろん野党政治家も絡んでいません。また、特にこれといって強� �なひとりの指導者（ゲバラやカストロのような）もいません。もちろん能力的に秀でた個人はいますが、原則的にひとつひとつのグループや個人がフラットな関係で有機的につながっており、もしかするとこのあたりにインターネットの影響があるのかもしれません。

また、エジプトにおいてイスラム主義を信奉する人が増えていた理由は、ムバラク独裁により野党勢力が無きに等しい状況で、唯一ムスリム同胞団などのイスラム主義者だけが政府の不正を糾弾する姿勢をやめなかったからです。これは、かつて社会主義や共産主義が若者の心をつかんだのと同じ原理であり、宗教的な意味合いよりも社会正義の実現のための手段として捉えたほうがいいでしょう。

よって、社会正義の実現を掲げ、実行するしっかりした政治組織ができれば、自ずとイスラム主義に傾倒する若者は減少するでしょう。イスラム主義の台頭については、イランを除く他のイスラム国でも事情はほぼ同じです。